卒業設計とは探求の時間である。
そもそも、
僕自身が自分のベストを探求する時間が好きだし、
他者のベストの探求成果を見るのも、楽しい。
だから、それまでの4年間の全てをぶつける卒業設計を見るのは、楽しい。
そう、卒業設計とは、
それまでの建築人生の全てをぶつけ、
そして、社会の未来に挑むものなんだろうと、
僕は思う。
さて、今年の卒業設計。
まずは平均点が高かった。他研究室も含めて。
みんながみんな、「卒業設計」に取り組む中でできる、最大限の努力をしていたし、
4年生の1年間、ないしは半年間を注ぎ込んだ結果をきちんと表現していた。
だからこそ、最終的な票に結びついたのは、
自分の建築との関わりの4年間を、相対的に見れた作品だったように思う。
それはつまり、今年の卒業設計のレベルが高かったかということでもある。
つまり、最後の数ヶ月頑張っても太刀打ちできない。
し、4年間、あんまり頑張ってなくても到達しない。
そんな深さが問われた時間出会った。
最優秀「芽吹くいぶき −伊吹山石灰石鉱山における自然回復建築-」は、これまでの自分をきちんと反省し、これからの自分を表現した学生だった。
出来上がった作品が素晴らしいかと言われると議論が分かれるが、彼の生き方には全面的に賛同する。
2,3年生の時に見た時は表層的なデザインだったのが、最後には本質的な問いをしていた。
続いて、2位「いきものうつわ -グレーの街から共生へ、育んでつくる未来-」には、うちの学生が。
素晴らしい、本当に素晴らしい作品を作り上げてくれた。
彼女とは、1年生の頃から、うっすらと会話を重ねてきた。大切にしたいものが近いから、特に最後の2年間は、楽しい時間を過ごせた。
卒業設計で彼女と議論する時間は、本当に楽しかった。
議論すると、ちょっと上を見せてくれる。
だからこちらも負けじと疑問を投げかける。
そしたら次にはもっとよくしてくる。
群を抜いて口下手なのが玉に傷だけど、それも彼女の良さなのだろう。
3位は、あまり関わりのなかった学生。
でも、彼女が作る設計は、惚れ惚れするほど美しい。
丸を使った作品の平面図で、息を呑んだの初めて。
美の探求を続けた彼女らしい作品「葡萄で繋ぐまちの風景-生産緑地から人の居場所への変換-」だった。
あれだけ社会性の武装をしたのに、最終的にみんなが彼女の設計力の話に終始したのは、きっと興味と強さが明確だから。
是非そこを伸ばして欲しい。
4位「4代目の佐野家 -既存住宅の分解と再構築による材継ぎ-」はうちの学生。
この卒制は、すっごく楽しかった。
2年生、彼女は群を抜いて優秀だった。
だから同時に本音が見えなかった。
3年で、彼女の本当に好きなことがわかった。
そして4年、自身の弱点を教えてくれた時、ようやく自分の教え子になった気がした。
本音で話してくれて、一緒に卒制を考えられて、よかった。
出来上がったものは、最高に面白かった。
それ以外の学生で印象的だったのが、
「SHARE BOKU〜産業動物の存在を日常に感じる〜」
「障害者就労と地域社会の向き合い方の探求−就労継続支援施設の改築から−」
これらは、ものすごく良いプロジェクトだった。
自身の興味をきちんと精査し、かつ、現場で、切実な現状を学んでいた。
その上で、建築サイドからできるものが何かを、真摯に、きちんと、考えていた。
現場を理解しようとせずに、自分の表現に走る作品が多いなかで、異彩を放っていた。
こういう作品を、きちんと評価したい。
あとは時間軸を扱う作品が苦戦していた。
「廓 -文化財未満の価値のある建築の行方-」 「水と棲まう街-川との付き合い方から考える水産業の再建-」
「百々邂合 −貯木場跡を拠点とした竹の循環活用-」
など。
これはもしかしたら、現代が、明確に、過去よりも未来への接続を求めているからなのかもしれないな、と、発表と講評を聞きながら考えていた。
時代は変わる。
でも、過去を見ることの重要性は、失いたくない。
同時に、現代との照らし合わせが必須になってきたのであろう。
特に前者二人はうちの学生で、苦戦していた。
「まち歩き」からその地域の魅力を探し、そして、一般に評価されていないものを建築を介して翻訳する。そんな町医者的視点への興味は、持ち続けて欲しい。リアルでは効果的なアプローチだから。
あとは、うちの作品は、みんな、クライアントワークではなく、今社会に存在しない案件を作ろうという意思が見えていた。
ということにも、どこか面白さがあったし、それが特徴なんだろうな、と思った。
現代社会の課題を感じている誰かを見つけ、表現する。
のではなく、
現代の課題にダイレクトに操作をする。それが面白かったら誰かついてくるだろう。
という視点が、
きっと我々チームであり、同時に、学外評価を得ることも多い理由の一つな気がした。
ともあれ、本当にみんなよく頑張っていた。
企画的面白さを内包する
「高齢者主体型都市 -空きビルを活用した複合型福祉施設の提案-」
「境界を捉え直す -郊外における公私領域を混在させる道路更新計画-」
「災害と暮らし -商店街における事前防災計画-」
「郊外暮らしの芸術祭 ー主人公:核家族が変化したまちー」 は、面白いんだけど、空間で追いきれなかったのが、課題かと。
企画と連関と空間。
それらがマッチすると、素晴らしい作品になる。
「週末林業のすゝめ -郊外の杣人が始める自立共生的な暮らし-」
は、すっごくよくできていたし、
プレゼンの中でとてもハッとした瞬間がった。
でもそれら線が一本になるためのアシストが、多分必要なんだろうな、と。
最後に。
毎年真剣勝負の先生方への感謝を込めて。
また来年、楽しくなるように、1年間頑張りましょう。
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