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nobusato

NAFの感想

今年も中部卒業設計展のレビューを。


今年は審査委員長に塚本さんがいたこともあって、NAFの公開審査も聴講した。自分以外の講評を聞くのもいいなぁ、と。さて、感想。


まずは例年通りぐるっと会場を回る。最初の興味は卓越した作品があるのか。


ざっとみたところ、3つくらいは残るなぁ、と。

コーガ石を使った作品(119)、閘門を扱った作品(160)、千曲川水害からの復興(136)。これらは模型表現とシート構成がきちんとしていて、造形的な挑戦もしていた。落ちることがないだろうという印象。

ただ、昨年感じた、「あ、これ最優秀だ。」という感覚は得られなかった。


続いて評価できたのが、言いたいことが強いものの決め手にかけるもの。シートを見ると深い声があるもの。それが116と151(通過)。名城大学勢の110(通過)、125(通過)、145もこの軸に入る。


他方、自分にとってはそこまで琴線に触れなかったものの、審査員によって高い評価を得るであろうものは、114(通過)、137、154、155(通過)。


頑張っているなぁ、エネルギッシュだなぁ、と思ったのが、104、127、130。とにかく迫力と思いがあった。ただ、そこから一歩引いて客観性を伴った視座があるともっと評価されたのであろう。個人的にはこういうエネルギーある作品も選ばれて欲しかったとは思う。


作品全般を通した感想。

今年はコロナもあり、内向的な作品が多いかと思ったが、意外に産業軸が多かった。これはフィールドワークの難しさも影響したようにも思う。現地調査に出れない状況が地元と向き合うことを促進したのかもしれない。そういう意味で、多様なバックボーンがある場所を舞台にした信州大の作品に目がいきがちだった。都市に対する提案が目立たなかったのも、年の脆弱さを痛感させられた今年と何か関係があるのだろうか。


そしてもっと意外だったのが、産業軸かと見てみると、その奥にある自然とか地球とかを意識している作品も多かったこと。建築を作る、こと以上に、今ある資源と今いる地球とどう向き合うのかが、学生にとっても重要なトピックになっていることに驚いた。


公開審査も楽しかった。

作品を通してどういう未来を描こうとしているのかを語る中山さん、内部空間がどう形成されているのかを問う岩月さん、建築がいかにして成立しているのか指摘する中川さん。木村さんはゆったりした語り口で丁寧に設計されたものを評価していた。塚本さんは、物事を正しく認識できているのか、そしてそこに上乗せがないのかを語っていた。

最終的にはほぼ満場一致で、りんご園と建築を扱った作品が最優秀賞に。僕も参照書籍は読んでいるし、参照から生み出したオリジナルが何かをもっと知りたかったけど、完成度と見ている射程の広さはよくわかる。


塚本さんは「問題解決をカッコつけてサボらない」という発言をされていた。僕自身、「卒業設計は未来へのメッセージ」と常々言っているし、今年は、「事業計画的視点を持とう」というような指導をしていた。そういう意味で、きちんと地に足をつけた事業を作ろうとしており、かつ、広義の未来への提言のある作品だったのだと思う。


審査員になるような先生方はものすごく勉強されている。だからこそ、先生方の深読みというか、好意的なミスリーデイングをうめるのかも大事。そのためには哲学・歴史、そして社会の勉強が不可欠。毎年重要視される社会課題への琴線をはる必要がある。ソーシャルベンチャーの世界とトップアーキテクトが見ている視座は、どんどん近づいてきている気がする。


中山さんの「価値の大転換時代」という話は、前職の世界遺産専攻時代に学んだ文化財保存哲学を足がかりに、今まで考えてきた「文化財未満の文化的価値を有するもの」という概念と地続きで、とても面白かった。


会の冒頭に塚本さんが、「卒業設計として評価しない。」と宣言していたように、ここで行われていた議論は、これからの社会に我々建築人がいかにしてアクセスすべきかという話で、とても面白かった。そういう趣旨での塚本さんの「つくろうを建築のどまん中に、という挑戦」というフレーズは、本当に時代をついていると思う。そこを中心に最近の活動をしているので、自分の見ている世界の広がりを感じる一言だった。


10年前、僕は卒業設計をしていた。

東日本大震災前最後の卒業設計の世代。

そこから社会の要求は変わり、

今年もきっと新しい時代の始まりなのだろう。


次の時代を考えるためには、社会の概念から学ぶ必要がある。

答えのない時代にいるからこそ、建築家も小さな解決策を求めて思考の漂流を重ねている。

だからこそ、学生も広い視座で建築を捉え、負けじと学ぶ必要がある。


最後に個人的な備忘録。

そろそろ貝島さん、塚本さんに出会って10年。

10年前全く知らない気高い建築家と認識していた塚本さんが、

いつしか、近しい尊敬する人物へと変わった。

恩師の一人に自分の教え子が作品を発表するというのは、なんか痒いような嬉しいような。

でも、見事なまでに名城の作品は塚本さんの評価軸に入ってこなかった。それも面白かった。

言っていることの大半は理解できている、と思っていたが、まだまだ自分の視点の深さが足りない。精進しよう。けど、進んでいる道は間違ってないだろう。

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